誘われる

 

 

 

 

 

 

 

太陽が沈もうとするとき、海の色はどんどんと濃さを増していく

そのさざめく水面を見つめていると、吸い込まれそうなほどに濃い

 

古来から人魚(セイレーン)は海の怪物として

恐れられていたらしい

その美しい歌声を聴いた者は

誘われるように恍惚を覚えたまま

海に引きずりこまれ

死に

そして岩礁のひとつとなるとか

 

不規則なリズムで

やさしげな音を立てる波音はとても心地よい

そしてその水面はどんどんと暗さを増してゆき

水面だけ見つめていると

上も下もわからなくなりそうだった

 

もしここが砂浜でなくて海上の

それこそ凪いでいて、もう夜がすぐそこに近づいている頃に

疲れた頭と身体と心でこの水面を船のへりに身を乗り出して

ぼうっと見つめていたら

声を掛けられ、誘われるように落ちてしまうかもしれない

 

あっ、と声を出す間も無く冷たい海に落ちて

上も下もわからない、真っ暗な海の中を必死に浮き上がろうと水をかき

上へ上へと上がるはずが、下へ下へと進んでしまうかもしれない

慌てる頭は水面を目指さず

何も見えない真っ暗で冷たい場所で

ゴボリと肺から最後の空気を押し出して

求める空気の代わりに、水で肺を満たすのかもしれない

 

僕はそういった想像をしながら、前述のセイレーンのことを思いだした

セイレーンは実在するのかもしれない

心地よい波の音が美しい歌声となり

隙の生まれた心に誘いかけてくるのかもしれない

そして母なる海は

そのときに、疲れ果てた人という我が子を

望むと望まざるとに関わらず

迎え入れるのだろうか

 

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