山への想い

 レースカーテンだけを締めて寝たので

朝が来ると電気を消した部屋の中で

窓が白く光っていた。

 

夜明けだ、と気がついて起き

自分が一夜を過ごした街を眺めようと

窓に近づくとその布の隙間から

一枚薄いはおりを

かけたかのような山々が見えた。

こんもりとしたその姿を眺め

もうずいぶんと山から

足が遠のいてしまっていることを思い出した。

 

けれども

出会いは別れの始まりである感覚が

どうにも拭えないように

こうなることはわかっていた。

 

一時期はよく歩いていたが

歩きながらも来年はきっと

あまり足を運ばないだろうなと感じていた。

歩いていくうちに僕が山へゆくのは

高みを目指しているからではなく

自分に挑みたいからでもなく

ただ自然の豊かさを求めているからだと知ったからだ。

そしてそれは

なにも山でなくても感じられた。

 

少しばかりの時間の果てに

僕は山が必要になった。

森林限界を越えたときの静けさや

雪の嵐が見せる美しさ

苦しむ身体が教える強さと弱さ

闇の恐怖、安らぎ。

 

春夏秋冬の山を歩きながら

生きていてごめんなさい

生かしてくれてありがとう

こうした尽きない情念が湧いてきて

繰り返し、繰り返し、懺悔をした。

あぁもう僕はここで死んでしまおうかと思えば

そうしたときも

空は高く、辺りは静まり、自分の息遣いだけが

身辺にあり溢れている。

こうしたことで唐突に

笑ってしまうほどの喜びを感じた。

自分は今、生きているのだと。

 

強烈なまでに

山へ向かう欲求を持たない僕は

山へ行かなくてもよくなった。

あの経験をもう一度としたいと願うが

それは望んで手に入るというよりかは

なんらかの巡り合わせによって

与えられるものだと感じている。

 

もう僕は山に期待をしていない。

行きたいと思ったときに向かうし

向かうときにはそれ相応の支度もするが

山で命を落としても落とさなくても

山で喜びを感じても感じなくても

どちらでもよい。

 

自然はなにも与えない、奪わない。

ただそこにあるだけだ。

自分もその中にありたい。 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:写真日記

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